私の提言

時には真摯に読書を 熊谷高等学校PTA会長 権田清志

 ある日曜の夕方、電車の向いの席に、行楽帰りらしい老夫婦が腰を下ろした。2人は各々鞄から文庫本を取り出し、読書を始めた。妻は大きめの手提げ鞄を膝に乗せ、背筋を伸ばして。夫は脇に置いたナップザックに少し凭れながら。乗客の少ない車内は静謐な空気に満たされ、2人の姿は穏やかに美しかった。私はこんな印象を子どもに与えたことがあっただろうか。

 高校時代は思索の季節とも言えるでしょう。大学受験や就職という人生の大きな岐路への不安を抱きつつ、自分はどんな人間なのか、自分は何をしたいのかを、焦燥感とともに考える年頃でしょう。生きる事の意味や社会との関わり方、幸福とは何かといったテーマを真剣に思考し、友と議論する時代でありましょう。そこにヒントや刺激や安らぎを与えてくれるのが本の力です。濫読の中から様々な知識を得、時には励まされ、時には気持ちが揺さぶられ、時には心の琴線に触れるメッセージと出会うことも。

 今、子どもたちは情報の洪水の中でじっくりと悩み考える気持ちと時間を持ちにくくなってしまっているように思われます。その年代でこそ感じられる、未熟だけど純粋で熱い思索と議論を、その季節にこそして欲しい。

 だから、希には親が真摯に読書する姿を子どもに見せたいと思います。ゴロンと横になり、メタボ気味の腹を掻きながら、といった姿ばかりでなく。

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